『水曜日の凱歌』乃南アサ

RAAという組織のことを、私は知らなかった。

高校時代、大学受験に日本史を選択した。
戦後史はほぼ独学で、図書館で教科書を読んでいたのだけれど、
戦前戦中は、治安維持法とか大政翼賛会とか隣組とか、とにかく人権なんかとことん無視で、
国のために命を落とすことが良しとされて、

そこから一転、
降伏するや否や国民が主権者となり、基本的人権や、表現の自由や、女性の参政権や、
なんだか突然人々の自由や人権が認められて、戦争が終わったらいいことばっかりだなー なんて感じたことでした。

こんなにいいことばっかりだったら、もっと早く降伏すれば良かったのに。そうすれば、死ななくてすんだ人もたくさんいたのに…と、教科書を読んでいたらそう思ったのです。
戦争は悪で、戦争さえ終わればこんなに世の中良くなるのだと。

このお話は、その戦後に実際に存在した「特殊慰安施設協会(RAA)」に通訳として職を得た母親を持つ、鈴子の目で書かれたもの。

私は知らなかった。
教科書では、戦時中から一転、いいことばっかりの世の中(もちろん貧しいことはそうだろうけど)になったように書いてあったのに。

どうしてこんなことになったのかと、何度も何度も問う主人公。
こんな不条理なことがあっていいのかと、
なぜ戦争なんかやったのかと、
戦争に負けるとはこういうことかと。

教科書にも載せてほしい。
私は知らなかったから。
でも知るべきだと思うから。