「レストラン『ドイツ亭』」アネッテ・ヘス 森内薫(訳)

アウシュビッツ裁判のことを、私は知らなかった。
(日本と違い?)歴史にしっかり向き合ってきたと言われるドイツでも、ホロコーストを知らない若者がいて、アウシュビッツ裁判はそんな中におこなわれた、実際の裁判らしい。

翻訳本は登場人物がごちゃごちゃになって好きではないのだけれど、この本はとても読みやすかった。

主人公のエーファは、当時のおそらくごく普通の若い女性。でも彼女がアウシュビッツ裁判の証人の通訳を引き受けたことで、知らなかったことを知って、悩んで、考えて、いろんな意味で成長していく様子がわかってくる。

両親が、アウシュビッツの食堂でナチスのために食事をつくる仕事をしていたことを知ったときの、エーファの驚愕。
選択できる権利はなかったという両親。
お父さんは家族と仕事を愛する、まじめな市民だよ。
でも戦争は、その普通の市民をも犯罪に加担させてしまうのね。そもそもそれは犯罪なの?

「当時合法だったものを、現在において非合法と考えることはできない」。その指摘には、そうかそうきたか!と思った。遡及処罰の禁止は知っていたけれど、そう考えると、戦争中の行為を戦後に有罪として裁くことはほぼできなくなるのでは。

最後。
エーファの両親が、娘の叱責にどれだけ心を痛めているかと思うとかわいそうでたまらなかったから、
エーファがユルゲンと復縁しそうな、そして家族のもとに戻りそうな終わりかたにほっとしたよ。

クリスマスにエーファが家に帰ったら、ご両親はすごく喜ぶよ。
エーファ、幸せになってね。

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