「不機嫌な英語たち」吉原真里

半自伝的「私小説」とあるから、すべて事実というわけではないのだろうけれど、おそらく著者が本当に体験したことをほぼ忠実に書いてあるのではないかと思う。

とてもおもしろかった。

すべてのお話に、なんだか心がしんとなったり、じんとなったりした。ちょっとさみしい気持ちと言ったらいいかなぁ。

どれも良かったのだけれど、ニューヨークのクリスマスがいちばん印象に残ったかもしれない。ポロリと涙を流す真里さんの気持ちがわかって、私もその状況にいたら同じように涙を流すと思った。

外国語の習得に興味があって手にした本だったけれど、予想以上にいい本でした。

 

 

「六条御息所 源氏がたり」林真理子

図書館で借りました。全三巻です。

大好きな林真理子さんの小説なので、ずっと気になっていたのだけれど、六条の御息所はあまり好きではなく…。

でも今回読み始めてみたら、さすがの林真理子さん!すらすら読めます。

源氏物語は高校生の時の古文で習ったのと、「あさきゆめみし」を読んだくらい。「あさきゆめみし」は受験勉強にすごく役立ちました。

昔は六条の御息所のことを「怖っっ」て思っていたけれど、今回は御息所の気持ちがわかってしまった。たぶん私が年をとったためですね。

それから源氏の君がひどい男過ぎて呆れました。

家にとじ込もって男を待つだけの当時のやんごとなき女性たちに、ひたすら同情したことでした。

 

「地図と拳」小川哲

日露戦争日中戦争満州事変…この辺りの歴史に興味があります。なのでこの小説も絶対おもしろいはず!と思って読み始めました。

実際おもしろかったです。

ただ、どんどん興が乗っていったところで急に視点が変わってしまって、新しいお話が始まってしまうのはなぁ…。

もちろん関連しているのだけれど、その前の視点のお話を忘れてしまって、「あれ?これ誰だっけ?」と何度かなってしまいました。

それにしても壮大な小説で、巻末の参考文献の数にもびっくりです。

たくさんの人が無惨に死んでいったけれど、細川さんを死なせないでくれたことが嬉しかったです。

 

原田ひ香「おっぱいマンション改修争議」

変なタイトルだなぁと思ったけれど、この作者さんならおもしろいかも、と思って図書館で借りてきました。

実際とても読みやすくて、お話も良かったのだけれど、登場人物がみんなあまり幸せそうではなくて、読み終わってちょっとモヤモヤしてしまいました。

少なくともタイトルからくるイメージとは全然違いました。

それから、私は知らなかったのだけれど、この表紙のイラストを見るに、これは中銀カプセルタワービルなる建物がモデルのよう。そっちのほうはもう取り壊されてしまったそうですが。

とすると、小宮山悟朗のモデルは黒川紀章なのかしらん。

それはともかく、幸せではない登場人物たちの中でも、岸田さんには幸せになってほしいなぁと思ったのでした。ちょっとくせ者なのですけどね。

 

 

林真理子「李王家の縁談」

おそらくたくさんの資料にあたられて、よく勉強されて、その上で林さんの想像力と筆力でもって書かれた小説なのだから、それはおもしろくて当然!

李方子さんの写真は日本史の教科書で見たことがあったけれど、その写真がほんとうにお雛様みたいで、きっと当時、絶世の美女と言われた人なのだろうなぁと思っていました。

皇族や華族の方々の生活が、まったくの別世界だった戦前。本当に別世界なのだけれど、そこに昭和天皇や良子様や美智子様が出てきて、実はつい最近のことなのだとも思い知らされる。

皇太子が民間から配偶者を得ることに皇室になったニュースに、「日本はもう駄目だ」と書く伊都子。

今の皇室を思いながら、複雑な気持ちにもなったのでした。

 

 

 

「同士少女よ敵を撃て」逢坂冬馬

悲しい小説でした。

ドイツ語を学び、村を出て進学することも決まっていた主人公セラフィマ。

夢と希望と責任感に溢れていた彼女の目の前で、村中の人が惨殺されて。

狙撃兵になるべく教育されているときも、狙撃兵になってからも、たくさんの人が殺されて、たくさんの人を殺して…。独ソ戦の凄絶さを思いながら、その戦争の中でどれほどの人が命を落としていったかと思うと、もう言い尽くされているけど、戦争は嫌だよ。

ラスト近く。奇跡的に幼なじみと再会できたセラフィマ。良かったね!良かったねって思っていたのに。やっとセラフィマに救いが訪れたと思っていたのに。

おそらく相思相愛だったふたり。なのに…。

なぜ殺したの~(涙)

彼が心の優しい青年だということはセラフィマはよく知っていたはず。

わかるけど、わかるけど、でもでも…。

最後まで辛かったです。

今も続いているロシアとウクライナの戦争も、どうぞ早く和平が成立しますように。

 

橋田壽賀子『おしん』上・下

ふと目について図書館で借りました。
上下巻一気読みです。
泣きすぎてしんどかった…。

少女編はテレビで見たことがあったけれど、ここまで壮大な一代記だったとは。

明治の貧乏小作に生まれついた女性なんて、本当に馬車馬のように働かされてきたのだろう。

私の亡くなった祖母も明治生まれだったのだが、祖母の50代のときの写真を見ると、20~30は老いて見える。

とにかくすごい一代記だった。「おしん」と比べたら、確かに今の朝ドラなんてもはやお遊戯会。
ちなみに今の朝ドラは「ちむどんどん」です。