『オリンピックの身代金』奥田英朗

前に読んだ『罪の轍』がとても良かったので、これも読んでみました。

とてもとても良かった。

昭和30年代の日本の様子が本当によくわかります。
オリンピック景気に沸き、右肩上がりの経済発展を続ける日本。でも日本に住む全員が豊かになったわけではないのです。
この小説のなかでは秋田だったけれど、東北は確かに貧しかったのだと思う。
私の子どもの頃は、出稼ぎで働く人がまだたくさんいました。そういう人たちの様子をテレビニュースなんかで見て、ええ~っ?冬になったら家族と離れて都会へ働きに出るなんて、そんな人たちがいるの~?なんて思ったことです。

私の住む地方には縁のないことだったのだけれど、前の会社で働いていたとき、岩手出身の同僚がいて。
その彼女が、小学校のクラスメートはみんな誕生日が近いと言ってたのを聞いたことがあります。
「え?どうして?」
「出稼ぎに行く時期って決まってるじゃないですか。子作りする時期も限られるんですよ」

……その話がほんとかどうかはわからないけれど、東北の人って本当に出稼ぎするんだ~って思ったのを覚えています。

読み始めて、早々に島崎国男を応援していました。
須賀忠が、
どうしてあんな陰気臭い男に、次々と女が訪ねてくるのか。と怒っていたけれど、私も女だから島崎国男に惹かれたということでしょうか。

途中、何度も涙しました。
国男がヒロポンを打つたびに、もう打たないでくれと願いました。

国男がその後どうなったのかを、奥田さんはあえて書かなかったのだと思うけれど、
スリの村田留吉が「死なさんでくれ、死なさんでくれ」って訴えていたのと、私も同じ気持ちでした。

もし国男が生きていたら、2度目の東京オリンピックが行われるはずだった今年、彼は81歳です。
戦後75年になる日本は、彼の目にはどう映っているでしょう。

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