「『明日からダイエットをやろうと思っています』政治」

声に出して笑ってしまった。

今日の中日新聞夕刊。中島岳志氏が安倍内閣の本質を、
「『実現しないことによって支持を獲得する』というカラクリにあった」と説明しているのです。

まったくもって、なるほど!と、思わずひざを叩きたい気分。

「ポイントは『道半ば』だ。安倍内閣に一票を投じてきた人たちは、ぶら下げられたニンジンを追い続けてきたのだ。重要なことは、ニンジンには決して届かないということ。もう少し、もう少しと思いながら届かない故に、馬は走り続けるのである」。

なるほどなぁ~。すごーく分かりやすい説明で納得してしまった。

さらに笑ったのは、武田砂鉄氏による、「『明日からダイエットをやろうと思っています』政治」との安倍政治評の紹介。
うまい!うますぎる!

ここで読むまで、武田砂鉄という人を私は知らなかったのですが、
あまりにおもしろくて納得できたので、彼が連載を持っているウエブマガジンの購読申し込みをしてしまったことですよ。

安倍晋三を、私はまったく評価していない。
なぜ国民はもっと怒らないのか、怒りを持続させないのか、忘れてしまうのか。

「お疲れ様」などと、私はまったく思わない。
なんだか知らんが、あんなに真っ黒なのに逃げおおせたのが、とにかく腹立たしい。

あ~あ。

f:id:tetsunekom:20200930002455j:plain

『マークスの山』高村薫

今さらで恥ずかしい。
高村薫さんの『マークスの山』を読みました。
全面改訂されて文庫になっているようですが、読んだのはハードカバーのほうです。

はじめに出てくる、登山客を殴り殺してしまった岩田幸平を調べる佐野警部補と戸部刑事。そこのシーンは、巻頭にある北岳周辺の地図を何度も確認しながら読みました。

そこだけですっかりお話に引き込まれたのですが、佐野さんと戸部さんは主人公ではなかったのですね。

マークスこと水沢裕之が何をネタに恐喝しているのか、それを知りたくて頑張って読んでいました。
種明かしは、彼がたまたま手に入れた長文の遺書で明らかになるのだけれど、それはちょっと呆気なかったです。
山で急死した人物を、疑われるからって埋める?
たまたまその場面を目撃してしまったであろう、岩田幸平にスコップで殴り殺されてしまった登山客なんて、気の毒すぎる。

もう、このお話は気の毒な人がいっぱいいすぎて…。
撃たれた真知子が、合田に水沢とのことを一生懸命に話すシーンでは涙が出ました。
ふたりで穏やかに暮らしたいだけだったのにね…。
水沢は真知子が死んだと思い込んでいるふうだったけれど、生きていることを教えてあげたかったよ。

たくさん人を殺してしまって、それはまったく許されるべきではないのだけれど、
とにかく悲しいことでした。

林原はあのあとどうなったのかしら。

最後、山で死んでしまったマークス。本当に本当に呆気なくて、なんだかしょんぼりしてしまったことでした。

f:id:tetsunekom:20200927195118j:plain

『オリンピックの身代金』奥田英朗

前に読んだ『罪の轍』がとても良かったので、これも読んでみました。

とてもとても良かった。

昭和30年代の日本の様子が本当によくわかります。
オリンピック景気に沸き、右肩上がりの経済発展を続ける日本。でも日本に住む全員が豊かになったわけではないのです。
この小説のなかでは秋田だったけれど、東北は確かに貧しかったのだと思う。
私の子どもの頃は、出稼ぎで働く人がまだたくさんいました。そういう人たちの様子をテレビニュースなんかで見て、ええ~っ?冬になったら家族と離れて都会へ働きに出るなんて、そんな人たちがいるの~?なんて思ったことです。

私の住む地方には縁のないことだったのだけれど、前の会社で働いていたとき、岩手出身の同僚がいて。
その彼女が、小学校のクラスメートはみんな誕生日が近いと言ってたのを聞いたことがあります。
「え?どうして?」
「出稼ぎに行く時期って決まってるじゃないですか。子作りする時期も限られるんですよ」

……その話がほんとかどうかはわからないけれど、東北の人って本当に出稼ぎするんだ~って思ったのを覚えています。

読み始めて、早々に島崎国男を応援していました。
須賀忠が、
どうしてあんな陰気臭い男に、次々と女が訪ねてくるのか。と怒っていたけれど、私も女だから島崎国男に惹かれたということでしょうか。

途中、何度も涙しました。
国男がヒロポンを打つたびに、もう打たないでくれと願いました。

国男がその後どうなったのかを、奥田さんはあえて書かなかったのだと思うけれど、
スリの村田留吉が「死なさんでくれ、死なさんでくれ」って訴えていたのと、私も同じ気持ちでした。

もし国男が生きていたら、2度目の東京オリンピックが行われるはずだった今年、彼は81歳です。
戦後75年になる日本は、彼の目にはどう映っているでしょう。

f:id:tetsunekom:20200830224813j:plain

安倍首相の辞任表明

呆気ない気がしました。
私は安倍首相が嫌いなので、彼が首相でなくなることに残念な気持ちはもちろんありません。
ただ体調不良での辞任は残念です。
選挙で負けて、それで辞任してほしかったし、そうならなかったのが残念です。

『かがみの孤城』辻村深月

定時制高校に通う16歳の男の子から、とても感動したと聞いて、読んでみることにしました。
そのきっかけがなければ、絶対に読まなかったと思います。表紙がまったく好みではなかったからです。

たぶんにファンタジーも混じっていて、突っ込みどころもたくさんあるのですが、それでも良い作品だと思いました。

私は中学1年のとき、本当に学校が嫌でした。
小学校で仲の良かった子と全員クラスが離れてしまって、休み時間や教室移動の時にいっしょにいる子がいなくなって、
クラスに意地悪な子もいて、とにかく学校が嫌でした。
当時は不登校という言葉はなく、それは登校拒否と言われていたけれど、登校拒否をする度胸もなかったです。
学校に行かないともっとめんどくさいことになると思ったし。
だから堂々と学校に行かなくてすむ夏休みは本当に嬉しかったなぁ。

このお話の主人公(こころちゃん)をいじめる真田美織という女の子。
こういう子、実際にいると思う。
作者の辻村さんは、中学生の女の子の気持ちがよくわかるなぁと思いました。

わりと早い段階で、登場人物たちの生きている時代が違うことに気がつきますが、逆に何十年経っても、意地悪な子とか、学校に行けない子はいるんだなぁと思う。

私は今でも中1のあのときが大嫌いで、あのときの担任の先生も、意地悪なクラスメイトも大嫌いだけど、
辛かった経験も社会勉強のひとつだと今は思えるようになったよ。

今学校で辛い思いをしている子には、その先にはもっと広い世界があって、いろんな人との出会いがあるからって伝えたいです。

感動はしなかったけど、何度も涙を流してしまいました。

アニメ映画化されたらいいかも、と思います。

f:id:tetsunekom:20200822215750j:plain

令和2年長崎平和記念式典

テレビ中継を観ました。
ニュースとかで見聞きすることはあるけれど、中継をちゃんと観るのは初めてだと思う。

被爆者代表の89歳の深堀繁美さんの話は、心に響いた。
家に帰ったら、父親は助かったけれど、4人のきょうだいは死んでいた。でも死体を見慣れていたからか、涙はでなかった。
こんな日常のなかで人々が生きていたのが、今からたった75年前なのだ。

被爆者のかたがどんどんいなくなっていくなかで、核兵器の恐ろしさ、戦争の恐ろしさを若い人たちに継承されてほしいという、その強い思いが伝わってきました。

そのあとにあった、小学生の合唱にも思わず涙が。
あの子が生きていたならば~
この歌詞が沁みる。

それらに比べると、続く安倍総理のことばはとても軽い、うわべだけのような気がしました。心に響かなかった。

長崎には高校の修学旅行で訪れたきり。
平和公園で記念撮影もしたけれど、何をしたのかあんまり覚えていない。お土産のカステラはたくさん買ったなぁ。でも長崎の人はとても親切で、路面電車に乗っている私たちに話しかけてくれる人もいた。
今思えば、もっと原子爆弾や戦争のことを学んでくればよかった。当時はまだ戦争体験者が社会の中心として生きていらした頃だったのに。

猛暑のなかで、コロナ渦のなかで、式典の開催には 苦労があったことだと思う。テレビに映る出席者のなかにも、「早く終わらないかなぁ~」と思っているんだろうなと感じる人もいました。
仕方ないことだと思います。

それでもこのような祈念式典が、原爆の落とされた日に、現地で行われることは意義があると思う。
忘れてしまわないように。
私も普段は意識していないけれど、今日は戦争の恐ろしさと平和が続くことを強く思いました。

『熱源』川越宗一

壮大なお話でした。
帯のコピーには「樺太アイヌの闘いと冒険を描く前代未聞の傑作巨編!」とあります。

そうなのです。
確かにそうだと思うし、感動しました。
でもいまひとつ深まらなかったというか…。

とにかく登場人物が多すぎるのかも。それも主役級の。「主人公」が多すぎるといえばいいのかな。

一応、ヤヨマネクフが主人公だと思うのですが
個人的にはブロニスワフを主人公にしたほうが良かったと思う。
途中からはすっかり彼を主人公として読んでいたので、彼が妻子と別れることを決意した心の動きとか、彼の最期とか、その辺りがあっさりしすぎてて物足りなかったです。
ヤヨマネクフもいつの間にか死んでたし。

終章に登場した源田だって、むちゃくちゃ主役級だと思いました。彼を主役にしても良いし。
そんなふうに、主役がいっぱいいて、だから壮大といえばそうなのですが、もっと深く丁寧に掘り下げてほしかったかな、と思いました。

でも、時代に翻弄される人々の苦しみが胸に迫りました。ポーランド人もアイヌも、自分たちのくにを失った人たちです。
時代に飲み込まれたと言ってしまえばそれまでですが、アイヌの生き方や文化や彼らの伝統を、低俗と見る和人の愚かさが腹立たしくも悲しくも思いました。

みんな幸せに生きたいだけなのにね。

f:id:tetsunekom:20200731163818j:plain