ETV特集 永山則夫100時間の告白

日曜日にETV特集を見ました。
 
永山則夫という人の名前は知っていたし、
学校の授業でも死刑制度の話なんかで「永山基準」について学んだりもしていたけれど、ただそれだけで。
 
19才の青年。
4人の殺害。それも拳銃での。
 
これだけ衝撃的な事件なのだから、社会に与えた影響はどれだけ大きかったかと想像できるけれど
事件当時は私は生まれていなかったし、
政経の授業に出てくるところからして、なんとなく遠い時代の、遠い世界の話という感じがしていたのでした。
 
今回の番組で、私はものすごい衝撃を受けました。
 
「昔はみんな貧しかった」という人もいるだろうけれど
あれほどに、親からの愛情をまったく受けることなく育つ子どもというのがいるのだろうか。
実際にいたのだし、母親の証言テープを聞いていても
子どもを疎ましく思う気持ちこそあれ、愛情のかけらも感じられず
悲しいとかかわいそうとかいうより、とにかく衝撃だったのです。
 
以前、DV問題に取り組んでいる女性相談員の話を聞いたことがあるけれど
そのかたによると、虐待をする人は、その人自身も虐待を受けてきたという人がほとんどらしい。
暴力は連鎖すると。
ただその連鎖は100%ではなく、ひどい虐待を受けて育った人が、少ない確率ではあるけれど
自らはそうならなかった人もいると。
 
「その違いってなんですか?どうしてその人は虐待せずにすんだんですか?」
「信頼できる大人に出会ったからですね。
 もちろん本人の強い意志があったからだろうけれど、そういう人に出会ったことが大きいです」
 
永山則夫氏は、本来は自分を絶対的に愛してくれるはずの親からの愛情を受けることもなく
彼にとっての信頼できる大人に出会うこともなかったのでしょう。
 
残酷な話ですが、彼が罪を犯し、牢獄で過ごす中で、ようやく人間らしい生活や思考を持つことができたのだと思います。
それには4人の尊い命が失われるという大きな犠牲があり、
彼自身が言っていたように、自分だけが救われたからと言って、亡くなった人が救われなければ意味がないのです。
 
この番組は、彼の精神鑑定を行った石川医師との100時間に及ぶ面談記録を中心に構成されていました。
永山被告へのインタビューも、彼の母親へのインタビューも記録されていて
私は彼らの肉声を初めて聞きました。
余計、身に詰まりました。
 
そして、その最後の面談日に石川医師が撮ったという永山被告の写真に
またとても驚きました。
照れくさそうにはにかんで写っているその写真の人物は、
どこにでもいる、本当に普通の、むしろ気のいい、優しい青年でした。
 
石川被告の鑑定結果は結局最高裁では採用されず
彼は死刑判決を受け、48才で刑を執行されています。
 
4人もの人間を殺害しておいて
それで死刑にならないのだったら死刑制度の存在する意味がない。
そういう主張はあって当然でしょう。
 
でも私は、情緒的ではあるけれど
死刑を執行する必要があったのだろうかと思わずにはいられませんでした。
 
日本には死刑制度があり、それに値するほどの罪を犯したことも事実でしょうけれど
私が彼と同じ境遇で育ったならば、
私も間違いなく犯罪者になっていたことでしょう。
 
罪を犯す人には、罪を犯すにいたっただけの理由が必ずあり
それがなにで、どうすればその人物が罪を犯さずにすんだのか。
それを考え、支援できる社会が、犯罪を防ぐいちばんの道になると思う。
 
生きて罪を償う方法もあると、浅はかかもしれないけれど思います。