小山義治「穂高を愛して二十年」

山に登って写真を撮ることをライフワークにしているかたに、ナイロンザイル事件というものを教えてもらいました。
その事件のきっかけとなる死亡した大学生が三重大学の学生であったことや、その実兄がナイロンザイルの問題点を突き止めたことなどを話してくれて、
標高のものすごーく高いところにある山小屋って、いったいどうやってつくったんだろう…という私に、この本を貸してくださいました。

私は登山をしたことがないし、
そもそも登山中の事故で亡くなった人のニュースを見聞きするたびに、どうしてそんな危険をおかして山に登る人がいるんだろ?と思っていた口なので、
この本に出てくる山を愛する人々はとても新鮮でした。

特に私は、最初のほうの戦時中の話が興味深かったです。
慕っていた先生が「アカ」として突然捕まったり、徴兵を逃れられて故郷を離れて山に向かったり。

戦地で戦闘や飢餓に苦しむ兵士や、空襲で家族を失ったり、自らも焼け出されてしまうお話は聞いたり読んだりしたことがあったけど、
若い男性が徴兵されることなく乗鞍岳に移住するというお話は、作り話かと思ってしまうほどです。

この本は、そういう戦中から戦後にかけて、そして小山さんが山小屋を建てることを決意して、人力だけでもって建ててしまう、そこがとにかくすごいのです。
山小屋ができてからの、後半の登山のいろんな話はそれはそれでよいのだけれど、なんといっても前半ですね。
今の時代でもあそこに山小屋を建てるなんて、ものすごーく大変なことだと思うから。

この本の解説を書いているのが、ナイロンザイルの問題点を突き止めた石岡繁雄さんでした。
この解説もとても良かったです。

私は山に登らないけれど、山に登る人が途絶えないといいなと思います。

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