『昨日がなければ明日もない』宮部みゆき

宮部みゆきさんの作品は大好きです。
その昔、初めて読んだのが『火車』で、それこそ夢中で読みました。『楽園』も『模倣犯』もそうです。
この杉村三郎シリーズも好きな作品ですが、今挙げた3作品と比べると、当然ですが見劣りします。
でも宮部さんの人物描写はほんとうに素晴らしくて、いるよねこんな人! と思わずにいられません。

この本は短編が3つ収められています。
絶対零度
華燭
昨日がなければ明日もない

絶対零度がいちばん引き込まれました。
自殺未遂をした長女と連絡がとれない、とやってくる筥崎夫人。夫人もその長女の弟も、人となりが目に見えるようです。ちなみに筥崎夫人のご主人は東京電力のグループ会社の役員をしているとか(登場しませんが)。福島第一原子力発電所が事故を起こして1年後という設定です。
宮部さんの作品には、どうしようもない悪人というのが時々登場しますが、このお話もそうです。このお話の悪人は殺されてしまうけれど、ちっともすっきりしません。最初すごく引き込まれて読み進めたけれど、なんだかなぁ…という感じがしました。
あと、蛎殻オフィスの木田ちゃん。魔法使いすぎる…。この人がいればなんでもわかっちゃうじゃーん。

華燭は…おもしろかったけれど、さすがにここまでやるかなぁと思いました。ぶち壊すこと前提で結婚式しますか??親族にも招待客にもどれだけ迷惑なことか…。

昨日がなければ明日もない
タイトルにもなってるこのお話が、いちばん悲しかったです。

「それで、父が後始末をしてくれたんです」
ーーお前は悪くない。すまなかった。仕方がなかったことだ。
「もとをたどれば、みんな親の責任だと言って」

そう罪の告白をするシーンで、涙が出ました。
このラストに至るまでに、たくさんの人物が登場します。そのひとりひとりがとても丁寧に書かれていて、十分にその人物たちを想像できます。だから彼女の苦しみも、よくわかるのです。
姉を殺してしまった彼女に、この先穏やかな未来が訪れることがあるようにと、願わずにはいられませんでした。

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