『天涯の花』宮尾登美子

珠子がいじらしい。
ずっと自分を抑えて生きてきた子だから、彼女自身が心の底から幸せだと思える人生を選んでほしいとと思い、でもどうすることが珠子の幸せなのだろうかと、私も考えながら読みました。

典夫はかわいそうだけれど、もし正式に結婚を承諾した後に、入れ替りで久能さんが帰ってきたことを考えると、ぎりぎりでその結婚に反対する親類たちの話を耳にして良かったよ。
ただそれを聞いてしまったときの珠子の気持ちを思うと、どんなに辛かったろうと思う。久能さんのことを諦め、典夫とささやかだけれど穏やかな家庭を築こう決心した矢先のことなのに。

でも珠子。いくら典夫に望まれても、施設育ちだからと結婚に反対するような親類と縁続きにならなくて良かったよ。
大丈夫だよ。久能さんは帰ってきます。もう少しだから。
きっとこれからも、辛いことはあるだろうけれど、久能さんといっしょなら乗り越えていけると思う。そうあってほしいと思う。

号泣したわけでもなく、なんとなくもやもやとしたものを感じつつ読んだ小説なのに、なぜか心に響きました。
珠子とその周りの人たちの幸せを願わずにはいられません。

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