『沈黙の町で』奥田英朗

読み終わってからもなかなか感想が書けなかった。
中学生の学校での転落死から始まる話。

とにかく中学生の集団心理がリアル。
私が中学生だったのはうんと前だけれど、今も同じなのだろう。

死んでしまった名倉君は、あぁこれはいじめられるわ…、という典型的ないじめられっ子。だからなんだろう。中学生の間に、彼の死を本心から悲しむ者はいない。
それどころか、みんな多かれ少なかれ彼をいじめたり、手は出さなくても見下していたりしただろうから、ひたすらびくびくしていたのだろうと思う。

名倉君は、確かに「なんかイラつく」子だったのかもしれない。
でも、テニスの下手な子がおしゃれなウエアを着たらだめですか?高いラケットを使ったらだめですか?下級生に先輩風吹かせたらだめですか?
先生に「本当のことを話しなさい」と言われて、つい話してしまうのもだめですか?

イケメンで体が大きくて、スポーツ万能だったら許されることが、彼には許されないのですね。
「なんかイラつく」子であったことはわかります。でも死ななければならないことですか?

リアル過ぎる話だとは思ったけど、私も好きになっちゃうなあと思った坂井君は、現実にはいないでしょう。
そして、いろんな人の立場から書かれていたけれど、この坂井君と死んでしまった名倉君の視点を知りたいと思いました。だからラストが呆気なかった。

なんだか読み終わってもいろんな感情が渦巻いて、苦しくなったことでした。
どの親も、自分の子がいじめる側にもいじめられる側にもなってほしくないと思っているはずなのにね…。

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