『帰郷』浅田次郎

夏休みに、戦争ものをたくさん読もうと思って借りた一冊。もう夏は終わってしまったけれど。

短編集です。
表紙カバーの白黒写真がなんとも言えない。
表紙をめくって、そこに頭を下げる娘と少女を見たとき、知らないはずのその光景が、私の前にさあっと現れた気がした。

号泣するとか、そういう類いのお話ではないのだけれど、読んでいて苦しくなった。特にふたつめの「鉄の沈黙」は、途中でやめようかと思った。辛かった。
だから3つめの遊園地のお話が、突然戦後になっててほっとした。戦地で死んでいくお話ではないから。

私が子どもだった頃、大きな神社の前に、物乞いをする手や脚を失った傷痍軍人がまだいた。
父が「ああいう人は自分で脚折っとるんや」と言っていたのを、「金鵄のもとに」を読んで思い出した。父は戦後生まれだ。

私が生まれたのは戦争が終わって25年後。たった25年なのだ。
生まれた時代がほんの少し違ったら。
そう思わずにいられない。

本当にほんとうに、やるせないお話だったのでした。

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